大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)3621号 判決

被告人 海保洋司

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意第三点について。

論旨は、原判示(二)の事実につき、判示警察職員の業務妨害犯人逮捕行為は現行犯人逮捕の要件を欠き、適法な公務の執行とは認め難いからこれに対し公務執行妨害罪は成立しない、と主張するものである。然しながら、原判決挙示の証拠によれば、原判示植月章郎及び道村博の両名が原判示の如くようやく写真機を取り戻して京成津田沼駅改札口を逃れて、国警千葉県本部警備課長千代三郎に出会し、折柄右両名の後を追つて改札口より出て来た盧在謹外五、六名の者を業務妨害犯人として指示したのでここに右千代三郎は船橋市警察署員にこれが逮捕を命じ更に警察学校生徒にもその追跡を命じたところ、右被疑者らは同津田沼駅中ホームに逃げ込んだので、ここに右警察署員等は右犯人逮捕のためこれを追つて右中ホームに到つたものであること、前記植月章郎及び道村博が前記千代三郎に本件業務妨害の被害事実及びその犯人として盧在謹外数名の者を指示したのは右犯行直後のことであり、且つその指示した場所も前記京成津田沼駅改札口より僅に約五十米の地点であることが窺われ右の事実は当審において取り調べた前記被告人斎藤直喜外五名に対する公務執行妨害等被告事件第三回公判調書中証人旧姓植月こと吉野章郎、同道村博の各供述記載、及び同第四回公判調書中証人千代三郎の供述記載並びに同被告事件につきなされた当裁判所の昭和二十九年六月十日付検証調書の記載に徴しても明らかなところであるから、右警察職員の前記業務妨害犯人逮捕行為はすなわち現行犯人逮捕の要件を具備し適法な職務執行行為といわなければならない。従つて、これに対する原判示被告人等の所為が公務執行妨害罪を構成することは誠に明らかなところであつて、所論は到底採用し難い。論旨は理由がない。

同第六点について。

論旨は、原判示(二)の事実につき、原判決は松戸利夫に対し全治約二週間を要する外傷性衂血及び左側肩胛部、左側膝蓋部挫傷の傷害を与えたほか伊藤春雄外二十名に対し全治二日乃至三週間を要する傷害を与えたと判示し、右伊藤春雄外二十名の警察官の氏名、その傷害の程度を判示しないのは罪となるべき事実を特定しないもので、原判決にはこの点において理由不備の違法がある、というのである。然しながら、本件のように、多数の被害者がある場合にその被害者の各氏名、その傷害の部位程度を一々詳細に判示することなく、その代表的な者の氏名傷害の部位程度を判示し、他の者についてはその一部(本件においては被害者二十名の氏名、及び二十一名の傷害の部位)の判示を省略しても、これに対応する挙示の証拠と対比してその被害者の氏名、傷害の部位程度が明らかに認められる場合には何ら罪となるべき事実の特定を害したものということはできないのみならず、むしろかかる場合(被害者多数の場合)には右の如き表示の方法は或る程度許さるべきものといわなければならない。而して、本件においては前記伊藤春雄外二十名の氏名、その傷害の部位程度は原判決挙示の原裁判所昭和二五年(あ)第四二六号事件記録(被告人齋藤乗一に対する公務執行妨害、傷害被告事件)編綴の医師芳賀孝一作成の伊藤春雄外二十名(伊藤春雄、白木義房、齋藤台次、麻生和男、小泉三郎、布施明男、須金孟、守村友三郎、苅米正男、松井繁雄、(繁男とあるは誤記と認める。)、高橋真之、石川秀十、佐久間喜八、中島秀一、岩崎安雄、中村尚、朝倉実、江畑作太郎、千代三郎、関正、弓削俊雄)に対する診断書の各謄本の記載に徴し明らかなところであつて、原判決の判示は右各被害者の氏名、傷害の部位程度を要約してその大要を示したものと解せられ、何ら事実の特定を害したものとは認められないのであり、従つて所論の点に関し原判決に理由の不備があるものとは認め難いところである。畢竟、論旨は理由がない。

(花輪 山本 下関)

註 本件破棄は量刑不当。

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